君に近付きたいから
ねぇ。
アンタってさ、何をどうしたらそんなにもデカくなれる訳?
俺なんか毎日毎日無理矢理牛乳飲んだって全然身長伸びないのに。
”そのうち伸びる”
なんて、簡単に言ってくれちゃうけどさ。
今すぐ伸びなきゃ意味無いんだけど。
っていうかいずれ伸びたところでアンタを抜ける気もしないし。
「・・・・・・-マ?」
ねぇ、何でそんなにもデカくなっちゃったの?
頭を撫でるのも
包むように抱き締めるのも
目線を合わせるのも
抱き上げるのも
本当は全部全部
俺がアンタにしてあげたい事なのに。
「・・・・・リョ-マ」
「・・・っ?」
ふと気がつけば、俺の目前に屈み込んで不満そうにしているアンタの姿。
・・・しまった、考え込みすぎたみたい。
今日は久しぶりにアンタがこっちへ来てくれてるっていうのに。
「・・・散歩、つまらんと?」
少し寂しそうに言う姿は、その体格にはあまりにも不釣合い過ぎて。
少し申し訳ない気持ちと、愛しい気持ちが心の中で混ざりあう。
「別に。少し考え事してただけ」
「考え事?」
今度は不思議そうに首を傾げてくる。
・・・アンタ、一体俺をどうしたい訳?
誘ってるとしか思えない。
つくづく天然って怖いよね。
「そ。まぁ、気にしないでよ」
「そげんこつ言われっと、気になるばい」
まさに百面相。
アンタと居ると本当飽きない。
・・・アンタも、そう思ってるよね?
「別にたいした事じゃない。・・・それよりさ」
「ん?」
「アンタのその身長ってさ、遺伝?」
「身長?・・・いや、そげんこつなかち思うばってん・・・急にどげんしたと?」
「気になっただけ。遺伝じゃないなら、どうやったらそうなんの」
「ん~・・・寝る子は育つち言うばい」
「そんな寝て・・・るね、確かに」
「ん!お天道様の下で昼寝するんは気持ちよかよ~」
「授業中に?」
「出席ばしとらんかったら、授業中とは言わんばい」
「それ、屁理屈」
そんな得意気に鼻を鳴らされても困るんだけど。
この人は俺より年上で体格もデカイのに、精神年齢は遥かに下だと思う。
・・・そういうとこ、嫌いじゃないけどさ。
「リョーマはそげん身長ば気になるとや?」
「当たり前でしょ」
「テニスは身長じゃないち言うとったばい」
「・・・別にテニスだけじゃないし」
「そげね?ばってん、他に何があると?」
「・・・恋人がこんなにデカくちゃ、気にもなるでしょ」
「俺??」
眉間にシワを寄せて俺を見てくる。
アンタと俺の身長が逆だったら、それで全部解決だったんだけど。
っていうかアンタもアンタで気にしなさ過ぎ。
俺ばっかり気にしててさ。
・・・こんなの、不公平だよね。
「ねぇ」
「ん?なんね」
「ちょっとさ、しゃがんでよ」
「よかよ。・・・どげんしたと?」
本当はこんなお願いも出来ればしたくないんだけど。
ムカツクくらい長い足を折ってしゃがんでくれたアンタは、俺より目線が下になって。
首を傾げて見上げてくる姿はきっと俺以外知らない。
・・・こういう時だけは、アンタの身長が高くて良かったとつくづく思う。
俺は周りに人が居ないかを軽く確認してから、目前にあるふわふわの頭ごと、暖かい身体を包むように抱き締めた。
「っ!?リョーマっ?」
「・・・こういう事もさ」
「な、なんね?」
「こういう事も、アンタにしゃがんでもらわなきゃ出来ないでしょ」
「う・・・」
少しだけ身体を離して覗き込めば、端正な顔を真っ赤にして俯かれた。
愛しい。
無償に心臓の奥底からそんな思いが溢れ出してくる。
目下でふわふわと揺れる髪の毛を撫でてやれば、ぎゅっと服を握られた。
あぁ、もう。
アンタの言葉を借りれば、『ほんなこつむぞらしか』って奴。
俺によく言ってくるけど、それはまさしくアンタの為にある言葉でしょ。
「ねぇ、千里」
「・・・っ」
普段呼ばないアンタの名前を、耳元で言ってやる。
その耳まで真っ赤になったアンタは、更に強く俺の服を握ってきた。
「流石にアンタの身長を超えられるとは思ってないけどさ。・・・少なくとも今よりはデカくなるから」
「リョーマ・・・」
「そしたらさ、アンタをいつでも抱き締められるよ」
「・・・う」
「そうなったら良いとか、思わない?」
アンタはきっと、今を最大限に満喫していく人間なんだろうね。
普通の人が気付かないような小さな事さえも見つけて、喜んで、嬉しそうに笑う。
だから未来や過去を思って嘆いたり、怒鳴り散らしたりなんかしないんだ。
俺はアンタのそういう所に惹かれてる。
俺とは決定的に違うところ。
俺の知らない世界を教えてくれる存在。
でも今日は。
ほんの少し。
ほんの少しだけ。
俺の見る世界を見てみてよ。
「・・・ばってん、尚の事ふとかなられっと困っとよ」
「は?何で」
「・・・俺の」
「俺の何」
「・・・・・・俺の心臓が、もたんばい・・・」
あぁ。
早くアンタに近付きたい。
うずくまるその姿を抱き締めるのもいいけれど。
普段通りのアンタを包み込んで俺色にしたい。
俺の腕の中で真っ赤になり俯くアンタを見てたら、俺の頬まで熱くなってきて。
あぁ、身体だけじゃなくて、精神的にももっと大きくなりたい。
これくらいで照れてるなんて、俺も・・・・
まだまだだね。