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命の枷

 

 

 

 

 

 

 

また、沢山の仲間の命が消えていった。

護れなかった。

流れていった。


護りたいはずの刀は何一つ護りきることも出来ずに。

斬りたくないはずの刀は全てを切り刻んでいく。



自分の手には敵と味方の血。
真っ白なその手は赤く染まり、元々紅い瞳はまるで靄でもかかっているかのようにくすんでいた。

銀時はゆっくりと、右手に持つ刀を持ち上げる。

その刀身は血がこびりつき、所々には切り裂いて付着した天人の物と思われる肉片が見受けられた。

それを拭うでもなく、鞘に収めるでもなく。
ただぼんやりと見つめていた銀時は、あろうことかそれを自分の首へと向けた。
ゆっくり刀身を頚動脈へとあてがう。

そして、力を込めたその時。


「何してやがる・・・っ!!!」


焦った声と同時に、自分の首を切り裂くハズだった刀は奪い取られ、何か暖かい物に包まれた。


「・・・・?」


ゆっくりと銀時が顔を上げるとそこには間近にあった見覚えのある顔。





「晋・・・助・・・?」


呆然と呟くと、高杉は深く安堵したようにため息をつく。

ふと自分を抱きこんでいる手と反対の方を見ると、そこには自分が愛用していた刀の刀身を握りこんで血を噴出している高杉の右手があった。


「晋助・・・っ」


暫く呆然としていた銀時の瞳に光が戻り、焦ったように名前を呼んだとき、遠くから聞きなれた二人の声が響いてきた。


「銀時!!!無事か!!」

「・・って、高杉!おまん何勝手に銀時抱きしめとるんじゃ!!!わしにも抱かせぇえ!!!」

「テメ・・・!このもじゃもじゃが!!銀時に触るんじゃねぇえ!!」

「・・・」


瞬く間に騒がしくなった自分の周りに唖然としながらも、すぐに高杉の手のことを思い出す。


「な、なぁ!んなことより、晋助、手が・・・!!」

「あ?・・・あぁ、んなもんどってことねぇ」

「でもよ!!」

「・・・おめぇが無事なら、それでいい」

「・・・でも・・・」


抱きしめていた手を解いて頭を撫でてやるが、銀時は納得がいかないようで。


実を言えば、コレが初めてではない。
過去に何度も銀時は、無意識に自傷行為に陥り、その度にこの三人に止められていた。
それによって何度も傷つけてしまったこともある。

・・・・今回のように。


「・・・ごめん」

「銀時。そんな顔をしていては、折角高杉が身体を張ったというのに報われないではないか」

「そうじゃそうじゃ、気にせんでいいきに。高杉はそげな切傷へでもなか」

「なんか腹は立つがまぁそういう事だ。・・・だがもしそれでも悪いと思うんなら」

「・・・?」


申し訳無さそうに自分を見る銀時に、高杉は真剣に、しかし優しく眼を細めた。


「もう少し自分を大事にしろ」

「・・・っ!!」


再び頭を撫でられたと思ったら、また違う手が自分の頭を撫でて来る。





「・・・そうだな。銀時、俺達は、お前が生きていてくれれば、それでいいのだ」

「・・・小太郎・・・」

「おまんが、自分を責めるからこうなるんじゃ。わしらを傷つけたくないんなら、まず自分を大事にするといいきに」

「辰馬・・・」


優しく抱きしめる手や撫でられる手に安堵したように眼を細めると、銀時はまだ血が流れる高杉の右手をそっと手に取り、自分の白い陣羽織を破いて巻いた。


「ありがとよ」


高杉が微笑むと、銀時も嬉しそうに微笑む。


「強く・・・ならなくちゃな。・・・じゃなきゃお前達、護れねぇや」


そう呟く銀時に、三人は心外だと声を揃える。


「何をいっちゅうか、銀時」

「そうだぞ銀時。俺達はお前に護られるんじゃない」

「おめぇを護るために此処に居るんだ」

「!!」


だから、と続けて再び頭を撫でた高杉は、真っ直ぐ銀時と目線を合わせる。


「俺達といる時くらい、力抜きやがれ」


驚いて眼を見開いた銀時は、みるみるその顔を心底嬉しそうに綻ばせた。
今度は自ら三人に抱きつく。

そんな銀時を奪い合うように再び喧嘩が始まると、もはやそこはいつもの四人組の空気へと戻っていた。




孤独に戦い、一人自分を見失っていく白い夜叉。

それでも彼が人間としてこの世界にあり続けている理由はただ一つ。

それはそんな彼に、優しさと温もりを与えてくれる場所があるからこそ。


だからこそ彼は再び立ち上がる。

護れなかった命を

切り殺した命を

この仲間たちと共に背負いながら生きる。


「・・・ありがとな」


自分のまわりで騒いでいる三人に向けて、銀時は小さく微笑んで呟く。



もう、迷わない。



その瞳から靄は完全に消え、優しい紅玉が光輝いていた。









 

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