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同調分離

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ目の前の敵を斬っても。

どれだけ目の前の味方を護っても。

この先に光が見えない。

ただ増えていくのは大量の死体と

大量の血。

脳内が赤くなって行く。

ゆっくりと

自分が消えていく。

ふと気がつくと





じぶんがきえていた。






銀時が目を開けると、そこは真っ暗な上も下も無い空間。
訳がわからずキョロキョロと見回すと、急に背後に人の気配を感じた。

驚いて振り向きざまに腰にあるはずの刀に手を向けるが、その手は無情にも空を切る。
そうこうしているうちに気配は驚くほどの速さで銀時へと近づき、気がつけば自分の身体はその人物に抱きこまれていた。


「・・・っ!?」


抱き込まれているはずなのに、何故か体温を感じない。
振りほどこうともがくのに、力が込められている訳でもないのに振りほどけない。
次第に気味が悪くなってきた銀時は、恐る恐る密着している”人と思われる者”に声をかけた。


「あ・・・あの~~・・・お宅、どちらさん??」


返事は無い。
だがそのかわりに抱き込まれていた体は開放され、やっと相手の顔を見ることが出来た。
そして銀時は息を呑む。
どういう事なのか。
今目の前にいる人物は、まさしく銀時と全く同じ顔をしていた。
顔だけではない。
着ている白装束。
傷の場所。
全部が同じ、寸分違わずそこにあった。


「え・・・なに、どういう事・・・?」

「俺を呼んだのはお前だろ」

「!?」


困り果てていると、ようやくそこに居た”銀時”が口を開いた。
自分と同じ声。
ただ、少しだけ口調が違うかと、混乱した銀時の脳内が逆に冷静になって考えた。


「戦いたくないんだと、俺を呼んだのはお前だ」

「・・・・っ!?」


なんなんだコレは。
夢か?


「俺がお前のかわりに斬ってやる」

「え・・・何・・・?」

「お前の変わりに護ってやる」

「は・・・?っていうかお前・・・」

「お前は俺が、護ってやる」

「・・・・っ!!??」


あぁ、これは、俺だ。

再び包まれた体に、今度は暖かい体温を感じた。
もう戦わなくていいのか。
もう失わなくていいのか。
そう理解した瞬間、銀時はいつの間にか流れていた涙に驚いた。


「銀時」


頭を撫でられながら、名前を呼ばれる。
もしかしたら、初めてかもしれない。
せんせいにだって、こんな風にしてもらった事は無かった。


「今日からは俺が



白夜叉だ」





ある日を境に、戦場を駆ける白夜叉の纏う空気が変わった。
その切っ先は無情に敵を斬り裂き、その眼は鬼人の如き眼光の鋭さを放っていた。
普段とはまるで、いや、完全に別人であることに一部の者が気がつき始めた時、戦争は既に終結へと向かっていた。



「白夜叉」

「?」

「ありがとな」

「・・・・」

「俺はもう大丈夫。俺がまだここに居られるのは・・・お前が居たからだ」


いつもの暗闇。
住み慣れた場所。
同じ服に同じ顔だった二人は、今は少しだけ違う。

血飛沫をあびた姿の白夜叉を抱きしめて、真っ白なままの銀時は続けた。


「もう戦争も終る。お前ももう、戦わなくて良くなったんだ」

「・・・俺はもう、要らないか?」

「んな訳ねぇさ。俺にはお前が必要だ。俺はまだまだ・・・弱ぇ」



銀時にだけは見せる穏やかな笑顔で、白夜叉は抱き返す。
自分が銀時の代わりに立つのは戦場だけだ。
ただそれは血生臭い闘争の場だけじゃない。
この世界にはまだ沢山の”戦場”が残っている。
自分が唯一愛情を持てるこの存在の為になら、自分はどんな場所にも立つ。
必要としてくれるなら、自分はここに在り続けよう。


「銀時」

「ん?」

「お前は俺が、護ってやる」


それはあの日に言われた言葉。
銀時は嬉しそうに微笑み、答えるように腕に力を込めた。

次に”白夜叉”が現れる時、それは銀時にとっての戦場。

彼の眼は鬼人の如く光る。
それはただ一人、その人を護る為だけに。




「ありがとな」





 

 

 

 

 

 

 

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