その瞳が最後に
どうか
どうか
この眼が最後に映すその色が
どんな時にでも自分を導き続けてくれた
あの金色でありますように。
「・・・千里」
君が好きだといった、青い海が垣間見える丘の上。
優しい風が吹き抜ける中で、自分に持たれかかる様に隣に座る恋人に声をかければ、幸せそうな声が返って来た。
「なんね」
「・・・ちゅらさんやぁ」
「ん・・・ほんなこつ、綺麗ばい」
きっと君は、その顔を嬉しそうに綻ばせているのだろう。
握っている手は暖かく優しい。
・・・しかし。
その温もりに、やりきれない思いが募っていった。
こんなにも暖かい手を持つこの存在から
こんなにも優しい心を持つこの存在から
もう直ぐ、光が消える。
何故?
どうして、彼でなければならなかった?
どうして、自分では無く・・・
「・・・凛」
不意に呼ばれた己の名。
軽く眼を見開いて隣に眼を向ければ、そこには困ったように笑う君の姿があった。
「・・・俺は、平気ばい」
「ぬー・・・あびてぃんやさー・・・っ」
何を、言ってるんだ。
平気なはずが無いのに。
どうしてそんな風に笑える?
消えていく視界に、気が狂ってしまってもおかしくないだろうに・・・。
「・・・わんにまで・・・やーは強がるんばー・・・っ?」
「強がっとう訳やなか。・・・ほんなこつ平気やけ、そう言っとるだけばい」
「・・・わんは・・・平気あらんどー・・・っ」
堪らずに、隣にあった大きな身体を思いきり抱き締める。
抵抗される事は無く、むしろ優しく抱き返してきてくれた温もりに、自分の中のやるせない気持ちは更に増した。
「・・・無理さんけー・・・泣きたきゃ泣けば良いやし」
「・・・泣いたら、凛も泣くばい」
軽く眼を見開き、少し身体を離して相手の顔を見る。
そこには、優しく微笑み自分を見つめる瞳。
その瞳と言葉に言葉を詰まらせ何も言えず黙っていると、頬を暖かい掌で包まれる。
「俺は、凛の笑っとう顔が好いとぉ」
「千里・・・」
「そん髪と良く似とぉ、綺麗な笑顔が・・・たいぎゃ好いとぉよ。・・・やけん、泣かんで欲しか」
「・・・っ」
「・・・もう、最後やけん」
「・・・っ!?」
その言葉に、今度はこれ以上無い程に眼を見開く。
自分の頬に手を添えて微笑むその瞳を、食い入るように見つめる。
もう、時間が無い。
無意識に右手は、添えられていた手を掴んで。
左手は彼が自分にしているのと同じように、ほんのりと温かい頬に触れた。
優しく、包み込むように。
彼が、望むなら。
溢れそうになる涙を必死に堪えて。
誰よりも愛しい君だけに見せる微笑を乗せて。
震える声を絞り出して、伝えたい言葉を必死に紡ぎ出す。
「千里・・・しちゅん・・・」
「凛・・・」
「・・・やーの眼に焼き付けとけ」
「うん・・・」
「くぬ色も、わんの顔も全部・・・忘れたら許さんどー・・・っ」
「忘れる訳無か。全部刻み込んどるけん・・・」
「・・・千里・・・っ」
溢れる思いや、言いようの無い感情がこれでもかとあふれ出して。
涙を堪える事だけで精一杯で。
笑えている自信なんか、これっぽっちも無かった。
それでも君は嬉しそうに微笑んでいて。
君の瞳に映る自分の姿が消えていく瞬間、
「・・・凛、たいぎゃ・・・好いとおよ・・・」
その瞳から一滴の涙が、零れ落ちた。
初めて見せた君の涙はあまりにも綺麗で。
自分の姿が消えて、視線が外れた時。
沢山の思いが込められたであろうその涙に
その全てを受け止めるが如く口付けをした。
やがて堰を切ったように溢れ出したお互いの涙は止められなくて。
しがみついてくる手があまりにも熱くて。
耐え切れなくなって、その身体を強く強く抱きこんだ。
光を失ってしまった君に、ただこの温もりを伝えたくて。
導を見出す事が出来なくなってしまった君を、この腕の中に導きたくて。
絶対にこの手は離さないと、そう誓うかのように。
繰り返し繰り返し、抱き締めては願い続けた。
どうか
どうか
その眼が最後に映したその色が
どんな時にでも君を導き続けると誓った
この金色でありますように。