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第一幕

 

 

 

 

 

 

 


俺はお前の為に生まれた。


お前が泣くから。


お前が寂しがるから。


俺はお前を護る為に此処に居る。


お前を傷つける奴が居るから。


お前を殺そうとする奴が居るから。


だから俺は


お前の傍に居る為に


此処に生まれてきたんだ。







なのにお前は


俺を忘れようとする。


俺を消そうとする。


俺のお前に


気安く触る奴が居る。


そうじゃ無いだろう?


お前には俺が居るだろう?


いつだってお前を護ってきたのは


傍に居たのは


俺だったろう・・・?


俺にはお前しか居ない。


お前の為に生まれた俺だから


お前を取り戻す権利だってある筈だ。


お前だって


もう傷つきたく無いだろう?


だから俺は


お前の為に


俺の為に。


もう一度


牙を剥こう。










「あーもう。土方君が目の前であんな犬のエサ食いやがるから、せっかくのパフェが台無しだよコノヤロー」


といいつつも満腹になった腹をさすりながら歩くのは、銀色の髪を持つ男、坂田銀時。
銀時は足元に転がっていた小石を蹴り飛ばして、隣を歩く男を軽く睨む。


「あんな甘ったりぃもんにがっつかれる方が気分ワリィんだよ」


負けじと瞳孔の開きかけた瞳で睨むのは、真撰組、鬼の副長と恐れられる男、土方十四郎だ。
口調は喧嘩腰ながらもその雰囲気は柔らかく、夕暮れに沈みゆくかぶき町の中をゆっくりと歩く。
他愛の無い会話を交わしているうちに、二人はいつの間にか万事屋銀ちゃんの看板の前まで辿りついた。


「で、今度はいつ奢ってくれるわけ?」

「全くもって可愛くねぇ誘い文句だなオイ」


ニンマリといやらしい笑みを浮かべている銀時に溜息をつきながら、土方は煙草を一本銜えて火を付けた。


「今ちょっとめんどくせぇ事件抱えててな。ま、手あいたら構ってやるから我慢しろ」

「え、なにその上から目線。腹立つんですけど。すげー腹立つんですけどー!」


喚く銀時に土方は一瞬その目を優し気に細めてから、フワフワとなびく銀髪を一撫でする。
一瞬で大人しくなった銀時の頬に軽いキスを落としてから、もう一度頭を撫でて背を向けた。


「また連絡する」

「・・・おう」




ひらひらと手を振って去っていく土方の後姿を、銀時は腹をかきながら見送ってから自分も自宅への階段を上った。

銀時と土方は、誰もが知る公認の恋仲だ。

土方の度重なるアプローチによって、最終的に銀時が折れた形で今の仲となったが、現在は銀時もまんざらでも無い様子。

むしろ今では銀時の方が依存している気配すらある。

銀時が自宅のドアを開けると、そこにいつもの活気は無く。
家族とも言える子供二人の姿が無いことに気付く。


「・・・あぁ。そういや今日は妙んとこ行くっていってたか」


今朝方そんなような話があったかと銀時は納得して、暗い室内へと足を踏み入れた。
いつもならこの時間には既に灯りがついていて、歳のわりにませた少女が椅子に寝転びながらレディース4を見ているのに。
今はそれがない。


「・・・ま、たまには静かなのも悪くねぇ・・・」


それはまるで自分に言い聞かせるかのように呟かれて。

銀時は灯りもつけずに室内に入り、社長椅子にドカッと座って窓の外を見た。
空は既に藍色に染まり、うっすらと月が昇り始めている。

昔はこれが普通だった。

この家には誰も居なくて。

自分はいつも一人でこの空を見ていた。

これが、普通だったんだ。


ふと浮かんだのは、先程まで一緒に居た男の姿。
厄介な事件を抱えていると言っていた。
そういえば最近連絡もあまり繋がらず、忙しそうにしていた。


体調を崩してはいないだろうか。

無理はしていないだろうか。


そこまで考えて、銀時は小さく笑みを浮かべる。
自分はこんなにも女々しい性格だっただろうか。
大切な存在が出来ると、人はここまで変わるものなのか。


「・・・っ!?」


ふと、一瞬脳裏に何かが過ぎった。
何かは分からない。
しかし、どこか哀しいような。
怒りのような。
そんな感情が過ぎっては消えた。
どこか身に覚えのある何か。
しかし脳はそれをまるで思い出したく無いとでも言うように。
酷い頭痛と共にそんな思いもかき消した。


「・・・あー・・・寝るか・・・・」


椅子から腰を上げて、銀時は酷い痛みを発する頭を抱えながら寝室へと入る。
寝巻きに着替えるのも億劫で、銀時は着流しを脱いだだけの格好で布団に横になり、そのまま深い深い眠りへと落ちていった。










 

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