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第十四幕

 

 

 

 

 

 

 

立ち塞がるは白き殺意。
失意の中から最初に立ち上がったのは、やはり高杉であった。


「おめェ・・・何吹き込まれやがった?」


不機嫌そうに発せられた言葉に、銀時はただ目を細める。
言われている意味が、分からないかのように。


「・・・何の話だ」

「立ち位置がおかしいと言ってんだ。・・・戻ってこい。銀時」

「・・・てめぇ・・・なんで俺を知ってんだ」

「・・・?」


どういう意味だ。

目の前の男は確かに坂田銀時であるはずだ。
その銀時が、高杉を知らぬはずがない。
不可解な銀時の発言に、他の三人も顔を訝しげに歪める。
そして思い出した。

敵の狙いと、その方法を。


「旦那・・・っまさか薬を・・・!?」


瞠目して一歩足を踏み出した沖田。
しかしその足を止めたのは紛れも無い。
再び噴出した殺意と共に白刃を向ける、白銀の男。


「・・・幕府の狗が、俺を旦那だと?・・・胸糞悪ィ・・・ッ」

「!!」


その紅い瞳は、心底腹立だしいとでもいうように歪められる。

普段の銀時からは想像し得ない。
常軌を逸脱した行為と発言であるにも関わらず、それは沖田の心を切り刻むには十分な衝撃だった。


「・・・てめぇ、あっさり操られやがって・・・!」

「そういうお前は確か・・・真撰組の副長だったか?・・・じゃここで斬ればお前らも終いだな」

「・・・てめぇ如きに、二度も負けるかってんだ」

「・・・二度・・・?」


冷たく、冷え切った瞳を向けてくる銀時に、土方はその膝の力を奪われる。
最愛の者から放たれる最大級の拒絶が、失意と絶望に形を変えて彼等を斬るのだ。

それでも崩れる訳には行かない。

彼が望まずしてその場所に立つのであれば、望むべく場所へと連れ戻す為に。


「・・・銀ちゃん」

「・・・?」


訝しげに目を細める。
場違いな子供の存在に、うろたえているのか。

それとも・・・。


「銀ちゃんは、忘れてしまったアルか?」

「何のことだ」

「ワタシの事も、新八の事も・・・全部、忘れてしまったアルか・・・?」

「俺はおめぇらなんかしらねぇ」

「・・・また、忘れたアルか?・・・ワタシは忘れないアル。何があっても、銀ちゃんの事だけは、絶対に忘れないネ」







今にも泣き出しそうな少女。
少女だけでは無い。
憎むべき相手であるはずの黒服の二人ですら、どこか哀しげに自分を見て来る。

何故だ。

知らぬはずの彼等が何故、自分を知っているような口ぶりをする?

自分は知らない。
彼等を知らない。

ただ一人、あの隻眼の男を除いて。


「・・・オイ、お前・・・どっかであったか?」

「奇遇だな。俺もそんな気ィしてた所だァ」

「とぼけんな」


苛立つ瞳を向けてくる銀時に、高杉は確信する。
幕府に対する純粋なまでの殺意。
欠落した記憶。
その僅かに残る記憶の断片に己が居たとなれば・・・

現状の答えは自然と導き出される。


「・・・いつも俺に、付きまとっていた癖になァ。・・・薄情な野郎だ」

「・・・・?」


高杉の推理が正しければ。
銀時は恐らく、”知って”いるはずだ。


「そろそろ、墓参りにでも行くか?・・・先生の眠る、あの場所によ」

「・・・・!!!」


知っているはずなのだ。
例え自分達の事を忘れていても。
あの人の事だけは。
でなければこの殺意を説明できない。


「・・・しん・・すけ・・・?」


大きく瞳を揺るがせた銀時が、瞠目して高杉を見つめる。

その唇は震えて、かすかな声で呟いた。
そして、今度はハッキリと呼ぶ。
懐かしい己の呼び名を。


「晋助・・・!!!」




やはり。

銀時の記憶は操作されているのだ。
あの男にとって都合のいい場所。
銀時を修羅へと導くために、あの事件の直後で銀時の記憶を遮断した。

となれば、次に銀時がとる行動はただ一つ。

銀時は見開いた瞳を、今まで以上の憎悪に染めて。
磨きぬかれた白刃を、高杉の喉下へと勢いよく向けた。
それを予想していた高杉は眉ひとつ動かさない。


「晋助・・・!!お前が・・・っなんでそんな奴等と肩並べていやがる・・・!!!」

「それをおめェが言うのか?・・・望んで肩ァ並べて、俺の誘いも蹴ったお前のせいで、今度は俺が嫌々並べてんだろうが」

「なんの話・・・っ」


どういう意味だ。
訳が分からない旧友の発言に眉をひそめた時、今度は自分の喉元に刀が向けられた。


「おめェは知らないんじゃねぇ。忘れただけだ。なら、自力で思い出すんだなァ」

「・・・っ」


高杉が勢いよく喉元にむけた刀を振るうと、銀時は咄嗟に飛びのいて再び刀を構える。
ある程度距離が離れた所で、高杉は刀を手にしたまま右目を三人の方へ向けた。


「おめぇらもいつまで気抜かしていやがる。さっさと刀構えねぇと、一瞬で殺られるぜェ」

「・・・旦那に刀向けろってのかィ・・・?」

「何度も言わせるんじゃねェ」

「・・・」

「狗の一匹や二匹消えたところで俺にはなんの支障もねぇがな。・・・おめェがアイツを思うんなら、刀抜け」


それでも動揺したように瞳を揺らす沖田に、高杉はただ、静かに銀時を見据えながら言った。


「もし抜けねぇんなら、おめェがアイツを思う心も、所詮生半可なもんだったって事だなァ」

「・・・!?」


数刻前に、自分が宣言した言葉。
それは紛れも無く本心だった。
誰よりも、銀時の事を想っている。

だからこそ、刀を向けるなど・・・


「アイツに、大事なもん斬らせるつもりか?」





しかし、そんな沖田に向けられた高杉の言葉は、深く胸に突き刺さるものだった。

銀時の事だ。
もし正気が戻った時。
自分が斬られた事よりも、自分が斬ってしまった事の方が胸を痛めるはず。

ならば自分達は、何が何でも殺される訳にはいかない。

武神、白夜叉と恐れられた、あの男に。

刀を手にしたのは、土方。


「・・・言ったはずだ。俺は二度負けるつもりは無ぇとな」


ゆっくりと傘の銃口を向ける神楽は、その目に炎を取り戻す。


「銀ちゃん。銀ちゃんにそんなキリっとした目は似合わないアル。あの死んだ魚の目の方がお似合いネ」


そして、ゆっくりと刀を抜き、それを構えた沖田は、静かに呟く。


「・・・旦那。・・・どんなに憎まれようが罵られようが、俺はアンタを助けまさァ。・・・俺はアンタの、護衛なんですからねィ」


闘志を取り戻した三人に、銀時は苛立つように目を細める。

それに声をかけたのは、ニヤリと微笑む高杉だった。


「俺ァあの時、何があってもおめぇを護ると誓った。どんな手使っても護り通すってな」

「・・・?」

「だからおめぇを護る為に、俺はおめぇを斬る」


刀身と共に向けられたのは、言葉とは不釣合いのどこか優しい瞳。


「おめぇの心に絡んだその忌々しい鎖を、それをかけた野郎と一緒に叩っ斬ってやらァ」


武神として蘇った白夜叉と、それを救うために乗り込んだ四人。

四人掛りでも有り余る相手に、自分達はあの白い体を傷つける事無く動きを止めなければならない。


静かに刀を構えたまま、沈黙が場を染める。


そして・・・


救う為に。


四人はその白き夜叉へと地を蹴り、その刃を振り上げるのだった。




どうして?

何故・・・

俺は知らない。


必死な眼で、俺に刃を向けてくる黒髪の男の事も。


何かを叫びながら、俺に手を差し伸べてくる少女の事も。


今にも泣きそうな瞳で、俺の名を呼ぶ少年の事も。


つい最近まで子供だったはずの晋助が、いつの間にか大人になってあちら側にいる事も。


知らない。

知らない・・・



・・・違う。



自分の記憶には穴がある。
その欠如した穴に、もし大切な何かがあったのだとしたら。

俺はそれを取り戻したい。



俺は・・・



「白夜叉」

「!?」


不意に聞こえたその声は、まるで冷たい水のように銀時の体内へと染み込み、ひたひたと浸食していく。
薄く灯っていた光さえも押し流して、銀時の心は再び暗い闇へと引き戻された。


「白夜叉。何故立ち止まるのです?何故後ろを見るのですか」

「立ち止まる・・・」


赤月の声に反応し、動きを止める銀時。
何事かと四人が眼を見張っていると、更に赤月の声は呪文のように続けられた。


「立ち止まる暇は無いのですよ。ましてそやつらは幕府に忠義を誓うものと、それに手を貸すもの。貴方の敵なのですよ」

「俺の・・・敵・・・」

「その敵に興味を示すという事は・・・貴方のそれは、恩師に対する裏切り行為なのでは・・・?」

「!!」


銀時の瞳が大きく揺れる。
今にも泣きそうな、愕然としたような顔をして。

それを見逃す筈は無い高杉は、目の前の銀時を飛び越え背後にいる赤月に斬りかかろうとした。


しかし。





「・・・!」


瞬時に割って入った銀時によりその刃を食い止められる。

忌々しげに高杉が銀時を見ると、その紅い瞳からは光が消えて、虚ろな人形のように虚空を見つめていた。


「・・・本格的に洗脳に入ったってか?」


舌打ち交じりに呟くと、高杉は銀時と力比べになった状態で赤月に向かって叫んだ。


「恩師だと・・?おめェが俺達の何を知っていやがるってんだ」

「何も知りませぬ。私はただ、このお方の記憶を少し覗かせて頂いただけ」

「覗いた後に土足で踏み込んで引っ掻き回したってか?お前も相当なゲス野郎だなァ」

「何とでも。それで彼も心置きなく無く復讐へと赴けるのですから。感謝して頂きたいくらいですよ」


高杉の瞳に黒い炎が宿ったとき、不意に押し返す力が消えて前に倒れかけた。
消えた白を追うと、隣から赤月へと切りかかろうとしていた沖田の刃を止めている。


「テメェは・・・!どれだけ旦那の心をもて遊べば気が済むってんだ・・!!!」


先程まではかろうじて光が灯っていた紅い瞳も、今はまるで死人のように黒く淀んでいる。

目の前のそんな瞳を心底悔しそうな顔で見ながら、沖田は喉が擦れるほど悲痛な声で更に続ける。


「テメェはただ旦那が欲しくて、自分の為に旦那を一方的に苦しめて引きずり回してるだけでィ・・・」


グッと足に力を込めて、力の限り銀時を押し返す。
一瞬よろけた隙をついて、沖田はその後に居た赤月へと斬りかかった。


「そんなガキの我儘に・・・これ以上旦那を巻き込むなァ!!」


後もう少しで赤月を斬る。

その時、目の前になんの構えもしない無防備な銀時が舞い降り、沖田は咄嗟に刀を下げて飛びのいた。


「・・・旦那・・・っ!!」


悔しげに唇を噛む沖田に、笑みを含んだ赤月の声が響く。


「私を斬ろうと言うのであればご勝手に。ただし、白夜叉の身体ごと串刺しにでもしない限り、無理な話でしょうがね・・・!!」

「この・・・ゲス野郎が・・・!!」

「お前・・・!!」


後方から飛んできたのは、今にも泣きそうな少女の声。
眼だけをそちらに向けると、その先で神楽は俯いて拳を握り締めていた。


「お前・・・銀ちゃんが好きで連れて行った違うアルか・・・!?なのに何でこんな酷い事するネ!!」

「好きですよ?・・・ただし、修羅と化したこの夜叉を・・・ですがね」

「そんなもんは銀ちゃん違うネ!哀しそうな顔して、沢山泣いてる銀ちゃんが、そんなもん望んでる筈無いアル!!」

「彼が望まずとも、私が望んでいるのですよ」

「そんな勝手な理屈・・・反吐が出んだよ」


大粒の涙を零して泣き叫んだ神楽の肩に、土方が手を乗せて呟く。
その瞳の瞳孔は完全に開き、射殺すほどの眼光で赤月を睨んだ。


「自分の為なら他人がどうなっても良いなんて考えは、ガキ以下だな」

「そういう貴方がたとて同じではありませんか。自分達が彼を欲するからこそ、私の意向を無視しようとしている」

「意向もクソもねぇだろうが。こっちは四人。そいつも嫌がってるようなら、五対一でこっちが正統派だ」

「さすがは横暴な真撰組の副長殿だ」

「褒め言葉と取っておくぜ」



ニヤリと微笑んだ土方は、神楽の肩から手を離して前に進み出る。
沖田と高杉に並び、その眼は真っ直ぐ銀時を射抜いた。


「オイてめぇ。依頼はどこにふっ飛ばしやがったんだ」

「・・・」

「俺はお前になんて依頼した?・・・言ってみろ」


銀時の暗く静かな瞳が、僅かに揺れる。

ぴくりと動いた指先に気付き、赤月が何かを発しようとするも、土方はそれをさせぬと言わんばかりに更にたたみ掛ける。


「もし忘れたってんなら、報酬の酒は無しだな。・・・銀時」

「・・・・っ」


そうだ。

確か、赤月の声が流れ込んできたあの時。
誰かの声が響いていた。

確かに・・・あの男の声だった気がする。


何だった?

何を言っていた・・・

確か。



そう・・・






”何があっても・・・”






「旦那!言ったはずでさァ・・・旦那がどこにいようと、何をしていようと、俺ァそこにかけつけて旦那を護るって・・・!」

「・・・っ!!」


知っている。
俺は知っている。


確かに・・・知っているんだ。



「銀ちゃん!!こんな薄暗いとこから早く出て、家に帰るアル・・・!銀ちゃんが居ないと・・・家族が揃わないネ・・・」

「・・・か・・・ぞく・・・」


家族。

失った。
失った筈だ。
失ったその家族の為に、俺は闘おうとしていた。

なのに、その家族がもう新たに居るとしたら、俺は・・・




俺は・・・!




「白夜叉!!!」

「・・・・っ!!」


やめろ・・・


「白夜叉、斬り捨てなさい!!この者達は貴方の敵なのですよ!惑わされてはなりません!!」




やめろ・・・俺が聞きたいのは・・・




「斬りなさい、白夜叉!!」





やめろ・・・!!!





「斬れ、鬼神白夜叉!恩師の為に!!」








・・・・っ!!!









ざわめく心に反して、無情にも脳は身体に伝達信号を送る。
ゆらりと刀を構えた先に見据えるのは、空色の瞳を見開く少女。


銀時は静かに地を蹴り、少女に向かって刀を突き出した。






その時・・・






「・・・っっ!!!」







神楽の目の前に、紫色の着物が翻る。
一瞬遅れて、紫色の着物から、白刃が赤い血液と共に突き出してきた。






「・・・高杉・・・っ!!!!」





土方の悲痛な声が、静かに屋敷に響いては消えていった。


 

 

 

 

 

ただ、命じられるままに。
銀時は神楽の前に立ちはだかった高杉の横腹を、刺し貫いた。


「・・・ぐっ・・・っ!!」


口から血を吐き出した高杉に身を引きそうになるが、銀時を更に追い詰める赤月の命令。


「自分から刺されたのならば丁度良い。そのまま息の根を止めなさい!!」

「・・・!!!」


命じられる、そのままに。
銀時が刀を抉り上げようとした瞬間。

高杉が自分の刀から手を離して銀時の腕を掴む。
そのままゆっくりと、掴んだ腕を自分の方へと引き寄せた。

それは同時に高杉の体内へと銀時の持つ刀を差し込む形になり、銀時は呆然としながらそれを見ていた。

気付けば刀は高杉の身体に深々と刺さり、間近に接近した身体は高杉によって片手で抱きこまれていた。


「・・・・・・・っ?」

「・・・は・・っ・・・の・・世話・・焼かせや・・がる・・・っ」

「・・・ぁ・・・・っ」


暗い瞳を見開き、銀時の身体は震えだす。
高杉の体内から溢れた血は、刀を伝って銀時の手を濡らした。

ゆっくりと刀の柄から手を離し、真っ赤に染まった手を眼前へと持っていき眼を見開く。


「・・っ・・ォラっ・・いい加減・・眼覚ましやがれ・・銀時・・っ」


そういって、抱き寄せていた腕をその銀髪へと添えて、自分の肩に銀時の顔をゆっくり押し付ける。
大きく見開かれた瞳からは涙が溢れ出し、少しずつ光が戻っていく。


「・・・た・・・っ・・・すぎ・・・・っ」

「・・はっ・・遅ぇ・・んだよ・・っ・・・」


ゆっくり高杉の身体が倒れていく。
それを抱きとめたのは、完全に光を取り戻した銀時自身だった。




「高杉・・・っ」


その身体から刀を引き抜き、自分の白い羽織を脱ぎ捨てて包帯の変わりとする。
その瞳からは絶えず涙が溢れており、零れ落ちた雫は高杉の頬を濡らした。


「泣かせる為に・・ここまで来たんじゃ・・ねぇぜェ・・?」


涙が流れ続ける頬に高杉が手を添えると、銀時はそれを包むようにもって無理にでも笑ってみせる。


「なら・・・死なねぇよなぁ・・・?これで死んだら、うるせぇくらい泣き喚いてやるからなコノヤロー・・・っ」

「そいつは・・・御免・・被る・・・」

「・・・っ」


ゆっくり眼を閉じた高杉に心臓を鷲掴みにされるも、確かに続いている呼吸に安堵し深く息を吐く。

高杉を抱きこむように蹲っていた銀時の肩に、どこかで馴染みある温もりがかけられた。
ゆっくり視線を向けた先には、優しく微笑む沖田の笑顔。


「・・・?」

「旦那には少し小さいかもしれねぇが、無いよりマシだ」

「・・・!」


その、前にも一度聞いたことのある言葉と共に肩にかけられていたのは、沖田の隊服。
純白だった銀時の姿に、一転の黒が出来る。
それだけであの神々しさすら感じられた姿が現実的になり、酷く安心感を覚えた。


「・・・ぉ・・・きた・・・く・・・」


その大きく見開かれた二つの紅玉から、再びあふれ出した涙は美しく。
沖田は壊れ物に触れるかのように優しく抱きこんだ。


「お帰りなせぇ・・・旦那」


その反対側からは、沖田よりも強く抱きしめる小さな手。


「銀ちゃん・・・っ銀ちゃん!!!」

「・・・神楽」


頭を撫でてやろうとするも、血塗れた手を見て躊躇われ、優しく微笑むことでそれに変えた。


「悪かったな・・・神楽」

「本当アル・・・!どれだけ心配かければ気が済むアルかコンチキショー!!」

「今回ばかりは、俺が悪かった」


肋骨を持っていかれそうな程抱きしめられ呼吸を詰めてい所、少し離れた所から声がかけられる。


「思い出したか?依頼の内容は」

「・・・さて、どーだかな?」

「ま、今更思い出しても遅ぇけどな」

「・・・ちゃんと信じてたからよ、酒はよろしく頼むぜ」

「どこがだコラ!!!」

「早速飲みたいとこだが・・・それより先にやらなきゃならねぇ事がある」


神楽に高杉を預けて、銀時が静かに立ち上がる。
その手には、高杉の血で濡れた刀を握り締めて。

光が宿った紅い眼の先には、怒りと恐怖で震える赤月の姿。





「・・・っ・・・白夜叉・・・!!」

「違う」


一言でその名を斬って捨てた銀時は、静かに一歩踏み出す。


「何故拒むのだ・・!恩師を殺した幕府と、何故親しくつるむ・・・!?」

「その恩師が、復讐なんてふざけたもん、望んじゃいねぇからな」

「それでも、貴方はそれを成し遂げたいはず・・・!」

「あぁ、成し遂げたいね。その復讐って奴を」

「では・・・!!」


勝機を垣間見てその眼を輝かせる赤月。
しかしそれが映したのは、眼前で鈍く光る紅い刀身だった。


「この俺を操って、覗かれたくない過去引っ掻き回して、どうしようもねぇくらいムカツク旧友を、俺の手で傷つけた落とし前は・・・しっかりつけなくちゃな」

「・・・っ!ぅあああ!た、助けて!!!!」


振り上げられた刃に、赤月は情けない程の叫び声を上げて顔を腕で覆った。

ドスンっと、大きく音が響いた後、赤月の身体はゆっくりとその場に崩れ落ちる。

涙と鼻水を醜くたらした顔で、呆然と真横の壁につき立てられた刀身を見つめながら。


「これくらいでそんな怯えてるようじゃ、大した武勲もたてられねぇ訳だ」

「ぅう・・・っ」

「俺は白夜叉じゃねぇ。かぶき町でただの万事屋営んでる坂田銀時だ。だから、お前を殺すようなこともしねぇよ・・・だが」

「・・・っ!?」


とぼけたような瞳が、一瞬で冷たい夜叉のそれへと変貌する。
それはただ感情もなく自分を見据えていて、赤月は恐怖の限界を悟る。


「もしまた同じようなくだらねぇ策こらしたら、その時は・・・」


その瞳に剣呑な殺意が過ぎった瞬間。

赤月は白眼を向いて意識を飛ばしてしまった。




小さく息を吐いてその場に立ち上がると、銀時は手に持っていた刃を部屋の隅に放り投げた。

事を見守っていた、大切な者達の元へと歩み寄り、高杉に声をかける。


「オイこら、生きてるか?」

「・・・うるせぇな・・・話しかけんな・・・・」

「俺が抱き上げるのと、そこのマヨが抱き上げるのとどっちがお好み?」

「・・・どっちも御免だ」


そういって高杉は自力で起き上がり、襟元から若干血に濡れた煙管を取り出して口に銜える。


「オイオイ、葉も詰めてねぇ煙管銜えてどうすんだ」


土方が口に煙草を銜えて火をつけながら、ニヤリと微笑む。
忌々しげにそれを見上げながら、高杉は舌打と共に言い返す。


「そんな風情のねぇもんに・・興味はあるめぇよ・・・葉がなくとも・・・こっちの方がマシってもんだ」

「どうでもいいけど何自分で立ち上がろうとしてんの?お前」

「俺が・・・おめェを抱き上げて帰ってやる・・」

「いやいやいや、確かに刺しちゃったの俺だけどさ、頭まで悪くしちゃった覚えは無いよ?俺」

「安心しなせェ。旦那は俺が抱き上げて差し上げまさァ」

「銀ちゃんに触るんじゃないネ!!銀ちゃんはワタシが抱くアル!お前等はさっさと帰るヨロシ!!」

「んじゃもうこれでいいじゃん・・・」


大きく溜息をついた銀時の案により、土方と沖田が両脇から高杉に肩を貸し、一人で行こうとした銀時に神楽が抱きついた状態で多少の苦情はありつつもとりあえずは落ち着いた。


「で、新八達は?」

「多分まだ正門の方にいるアル」

「あいつら・・まだ闘っていやがるのかァ・・?」

「陽動としちゃ立派だがな」

「迎えにいかねぇと、さすがに近藤さんも泣きそうですねィ。・・・そいつも面白そうだ」

「ドSは置いといて、んじゃアイツ等迎えにいって帰るか。・・・皆でな」


ここへ来たときとは打って変わって、優しい笑みを誰もが零しながら。

そこにあるべき人物を取り戻して、彼等は廃屋を後にした。









 

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